「人生100年時代」と「家族信託」の話。
「人生100年時代」なんて言葉、最近よく耳にしますよね。2025年の統計によると、100歳以上の方が日本ではなんと 9万9,763人!世界一の長寿国になっています。
もちろん、長生きできるのは素晴らしいこと。でも、少しだけ怖くなりませんか?
昔なら、「老後」はほんの少しの余生でした。 でも今は、定年してから30年、40年と続く「第二の人生」があります。 そこで私たちが直面するのは、「長生きすることそのものが、リスクになるかもしれない」という、ちょっとシビアな現実です。
よく「うちは相続税がかかるから対策しなきゃ」なんて話を耳にします 。 もちろん、税金を減らす「死んだ後の準備」も大事です。
けれど、それ以上に切実なのが、「死ぬまでの長い時間を、どうやって自分らしく生き抜くか」という問題ではないでしょうか。
もし、認知症になってしまったら。
銀行口座が凍結されて、自分のお金なのに引き出せなくなったら 。
会社の株主として意思決定ができなくなってしまったら。
不動産を売りたくても、売れなくなってしまったら 。
「長生きリスク」に備えるには、税金対策とはまた別の、「生きている間の対策(認知症対策)」が必要なんです 。
今日は、その選択肢の中でも最近よく耳にする「家族信託(かぞくしんたく)」について、少しだけ詳しくお話しさせてください。
「家族信託」って、つまりどういうこと?
名前だけ聞くと、「信託銀行にお金を預けること?」と思われるかもしれませんが、少し違います。 これは、文字通り「家族を信じて、財産の管理を託す(たくす)」という契約のこと 。
ざっくり言うと、親御さんの財産管理権限という「パスワード」を、信頼できるお子さんに渡しておくイメージです。
仕組みはこうです。
- 委託者(親):「私の財産の管理をお願い!」と頼む 。
- 受託者(子):「わかった、ボクが管理するよ」と引き受ける 。
- 受益者(親):その財産から出る利益(家賃や生活費)を受け取る 。
ここで一番大事なポイントは、「名義(管理する権限)」は子どもに移るけれど、「利益(お金の価値)」は親のままだということ 。
例えば、お父さんが持っているアパートを家族信託したとします。 アパートの大家さんとしての「所有名義」は子どもになりますが、毎月の家賃収入は今まで通りお父さんが受け取ります。ちなみに、ここ驚かれる方も多いのですが、実際に不動産の所有権移転登記を行って登記簿上でも所有者を子どもに変更するのです。
このような状態をしっかり作っておくと、もしお父さんが認知症になり判断ができなくなっても、「所有者(名義人)」である子どもが「お父さんの生活費のため」に、スムーズに修繕したり、売却してお金を作ったりできるんです 。
裁判所が監督する「成年後見制度」だと、不動産(自宅)を売るのにも裁判所の許可が必要になったり、毎月専門家への後見人報酬の支払が必要だったり、ハードルが少し高い 。
でも家族信託なら、家族だけで決めたルールで、柔軟に親御さんを支えることができます。これが最大のメリットです。
でも、万能薬ではありません。
「すごい! じゃあみんな家族信託にすればいいじゃん」 そう思うかもしれませんが、ここで立ち止まってください。
家族信託が正解かどうかは、あなたの家族の状況・財産の状況によります。
- 頼れる家族が近くにいますか? → もし「No」なら、託して任せる相手がいません。その場合は、専門家にサポートを依頼する「任意後見」、「成年後見」の方が良いかもしれません 。
- 将来、不動産を売ったり、大規模な修繕をする予定はありますか? → もし「No(ただ住み続けるだけ)」なら、わざわざ信託契約を結ぶ必要はないかもしれません。
「誰に」「何を」「どうしたいか」によって、選ぶべき「お守り」は変わります 。 そして、よく誤解されますが、家族信託をしたからといって相続税が安くなるわけではありません。あくまで認知症対策としての「財産管理」と「資産承継」のための機能です。
「手遅れ」になる前に、作戦会議を
一番怖いのは、「いざ必要というときには手遅れになっている」こと 。 認知症が進んで意思能力がなくなってしまうと、遺言を含め、家族信託の契約は結べなくなってしまいます 。特に遺言・家族信託はしっかり内容を検討する必要があるので、時間もかかります。
「人生100年時代」の後半戦。 「家族信託」は、自分が自分らしく生き抜くための、オーダーメイド商品です。
ここ数年でだんだん普及してきた新しい制度でもあり、インターネットで検索して「なんとなくわかった気」になるのが、一番のリスクかもしれません。あなたのご家庭には、どの「お守り」が必要なのか。 一度、専門家と考えてみませんか?


